エジプト 古王国時代

ホルスVSセトー神々の戦いに込められた古代エジプト誕生史ー

古代エジプトの神話のひとつで有名なものとして、「ホルスとセトの争い」があります。

ホルスの父であるオシリスが叔父のセトによって殺害されてしまいました。

単純にみれば、2人のどちらの王位を継がせるのかという後継者争いの神話に見えますが……

しかし、そこには古代エジプト誕生のひみつが隠されていると言われています。

ハヤブサの姿をしたホルスが王権のシンボルとして崇拝されることになり、対してセトは悪役に徹することになるその経緯とは?

古代エジプト人の王権神話

オシリスとイシスとホルス像:この家族の神話が古代エジプトの世界観の大きな要素となっている/Wikipediaより引用

古代の世界では各文明圏それぞれに「王権神話」が存在します。

古代エジプト文明では、ハヤブサの姿のホルスにまつわる話がその王権神話になります。

地方の文化が集まって形成された古代エジプトですが、創世神話もいくつか伝わっています。

その中で王朝時代を通じても権威を認められていたのがヘリオポリスの神話になります。

天空の神ヌト(上)と風の神シュー(中央)と大地の神ゲフの図:ヘリオポリスの9柱神と神々で創世神話の神々でもある/Wikipediaより引用

創世神話では海にあらわれた一つの丘から始まります。

この丘に創造神アトゥ―ム神が登場し、自慰行為で大気の神シューと湿気の神テフヌトを産み出します。

シューとテフヌトは大地の神ゲフと天空の神ヌトを産みます。

しかし、この2柱の神々は常に交わっているため、天と地がくっつき他の神々が息苦しいとの怒り出しました。

そこで、大気の神シューが2人の間に割込んでヌトを持ち上げ、ようやく住む空間が作られます。

その後、ヌトから男神オシリスとセト、女神イシスとネフティスという4人の子供を産み出します。

これを「ヘリオポリスの9柱神」と呼ばれるこれからの神々は、古代エジプト人の宗教観に深く根を下しました。

このうち人間世界を統治する最初の王とされた長男のオシリスは、時代を経て新たな性格が加味さえれていきました。

ピラミッド建設が流行っていた古王国時代は、死んだ王を神格化するために「オシリス殺し」のエピソードが加えられて、オシリスは死者の国の王として祭り上げられるようになりました。

そしてこの「オシリス神話」には続きがあり、「ホルス神とセト神の戦い」と呼ばれる神話が作られることになります。

ホルスの母イシスの策略

イシスの壁画:彼女の知恵や魔術の活躍によってオシリスは冥界の王になる/Wikipediaより引用

地上の王オシリスが賞賛されるほど、弟セトは嫉妬し兄オシリスを殺害し、国中に遺体をばらまきます。

オシリスの妻であるイシスは遺体を探し集めましたが、夫の男根だけは見つかりませんでした。

そこで彼女は作り物の陰茎をつけてこれを補うと、得意の魔術で夫を蘇らせ、子供を生むことになります。

イシスが産んだ男の子はホルスと名づけられ、やがて成長し、父オシリスを殺した仇でるセトへ復讐することを誓います。

その物語は以下のようなものです。

オシリスの死後、ホルスはセトへの報復などもせず、2人の争いは長く続いて王が決まる状況ではありませんでした。

集まった神々の間でも意見が割れ、太陽神ラーはセトを擁護し、4人の兄妹神の母親ヌトはホルスを擁護します。

一向にらちのあかないこうした状況に苛立ったホルスの母のイシスは、セトへの徹底抗戦を宣言します。

神々は魔術の使い手であるイシスの介入で事態がこれ以上混乱しないよう、はなれ島で公正な審判をすることにします。

神々は守番に「島にはいかなる女も入れるな」と命じますが、イシスは老女に化けて金の指輪をちらつかせます。

さらに、言葉巧みに守番を騙して島に渡り、今度はイチジクの木の陰で妙齢の美女になりすまし、セトを待ち構えました。

そして、その美貌に惑わされて近づいてきたセトに……

「私は息子がいる未亡人なのですが、夫が残した家畜小屋に見知らぬ男が住みついて棍棒を振り回し、追いだされようとしています。なんと私は哀れなんでしょう」

これを聞いたセトは「そんなことがあっていいのか?そこに父親の仕事を継ぐ息子がいるというのに」と答えてしまいます。

その時、イシスは鷹の姿に変身。

そしてセトに向かって「さあ泣くがいい!お前はその口で、自分の考えた審判を受けるときが来るだろう!」と叫びます。

地団駄を踏むセトを尻目に、いよいよ、ホルスの頭上に王の冠が置かれました。

しかし、セトは直接対決で決着することを申し込みます。

それは、それぞれカバに変身して、どちらが長く潜って入られるかを競うというものです。

セト神とは何者?ホルスの戦いの結果とは?

ソストリス1世の玉座に描かれたホルスとセト/Wikipediaより引用

セトがうっかり口を滑らせたところで勝負はついたようなものですが…

この後、イシスがセトに慈悲を与えたことに怒ったホルスは母の首を刎ね、セトがホルスの目をくり抜けき、

対するホルスはセトの睾丸を潰したりと、物語は泥試合の様相を呈していきます。

そこに冥界の王オシリスの手紙が届くと、セトは神々の審判により自身の行いを認め、ホルスが晴れて永遠なる地上の王として戴冠し、物語は大団円を迎えます。

やがてホルスは人間の王に玉座を受け継ぎ、エジプト王はホルスの後裔となることで正統な王権を授けられることになりました。

セトは卑怯でよこしまな権力の亡者、所詮は王たる資質のない生来の敗残者という汚名がそそがれることありませんでした。

しかし、王朝時代には邪悪な混乱の根源、神聖な秩序を脅かす者とされました。

セトにまつわる伝承も、憎まれ役として描かれたもの多く、セトは一番最初に生まれて王になろうと母親の子宮を食い破って出ようとしましたが……

産道からオシリスが先に生まれてきたため、永遠に2番目となる運命を背負ったとされます。

また、セトの姿は長い鼻に四角い耳、プラシのような尻尾を持った奇妙な形で表現されています。

そのモデルはアリクイやロバ、またはツチブタとされていますが…

これらをモチーフにした空想上の動物と考えられています。

ホルスとセトの戦いから見えるエジプト誕生史

ナルメル王のパレッドの復元図:ホルスの化身であるハヤブサの姿がパレッドに描かれている/Wikipediaより引用

なぜ、セトは高貴な創世神であるのにかかわらず、ここまで貶められてしまったのでしょうか?

これにはエジプト王朝創草期の由来が隠されているのです。

元々、ホルスやセトはエジプトの南部で信仰されていた地方神でした。

エジプト王朝は上エジプトのヒエラコンポリスの王系が下エジプトに侵攻して、統一国家が誕生します。

ここで祀られたのがハヤブサの姿をしたホルスでした。

ホルスの図像は初代のファラオであるメネスの遺物にも見られ、ピラミッド建設が始まる第3王朝の頃まで、王名のヒエログリフと共に記す王の印として使われていました。

一方、セトはヒエラコンポリスよりずっと下流のオンボスの地方神でした。

セトの標章を用いて、セト神にちなむ称号を名乗る「ベルイブセン」というファラオも現れましたが、

しかしこれ以後、強大化したホルス派の勢力が弱小であったセト派の王家を駆逐します。

この権力抗争が2神の争いの神話に反映されていると言われていますが…

それから約1400年後、新王国時代になってセト神を再評価する王家は登場します。

第19王朝のファラオ「セティ1世」:セティ1世以降のファラオはセト神を信仰している/Wikipediaより引用

それはセティ1世に始まるラムセスの一族であり、セティとは「セトに愛された者」という意味が込められています。

このセトとホルスの戦いの神話にまとめられたのもこのラムセスたちの時代です。

しかし、ホルスの崇める末裔のファラオたちの最大の仇敵であるセトに、なぜラムセスの一族が崇拝することになったのでしょうか。

一説には、セティ1世は第2中間期にエジプトを占領した中東の異民族ヒクソスの血縁であり、

彼らが自国の雷神と同一視してセト神を信仰したと言われていますが…

その真相は謎のままです。

『参考文献』

杉 勇 , 屋形 禎亮 『エジプトの神話―兄弟神のあらそい―』筑摩書房 1997

杉 勇 , 屋形 禎亮 『エジプト神話集成』筑摩書房 2016

松本弥『古代エジプトの神々―図説古代エジプト誌―』弥呂久 2006

松本弥『古代エジプトのファラオ』弥呂久 2016

 

古代文明大研究

歴史系ブロガーです。 小学生の頃からの古代文明が好きです。 古今東西の古代の歴史について調べています。 解き明かされていない謎について迫って行くことに面白みを感じています。(中々人に理解されないですよね~泣) 分かりやすく世界の古代史について情報発信をしていきます。 よろしくお願いします

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